はじめに
2024年11月に正式リリースされた .NET 9 は、WebAssembly(以下、Wasm)対応の強化がさらに進んだバージョンです。特に Blazor WebAssembly や OpenSilver といったフロントエンド技術との統合が進み、.NET 開発者にとって Web アプリケーション開発の選択肢が大きく広がりました。
しかし、そんな .NET 9 環境で Blazor や OpenSilver プロジェクトをビルドしようとしたときに、以下のようなエラーに遭遇する開発者が少なくありません。
このプロジェクトをビルドするには、次のワークロードをインストールする必要があります:wasm-tools
このエラーは単に .NET CLI の問題のように見えますが、実際は Visual Studio 側に必要な開発ツールがインストールされていないことが原因であるケースがほとんどです。
本記事では、このエラーの原因・背景から、Visual Studio 上での具体的な解決方法、さらに今後の開発をスムーズに進めるためのヒントまで、丁寧に解説します。
wasm-toolsとは何か?
wasm-tools
は、.NET で Wasm ベースのアプリケーションをビルド・デバッグ・最適化するために必要な一連のツール群です。
主な役割:
- Wasm バイナリの生成
- Wasm 向け AOT(Ahead-of-Time)コンパイル
- 最適化(wasm-opt)や圧縮
- Wasm リンカ(wasm-ld)との連携
- ソースマップなどのデバッグ補助
たとえば、Blazor WebAssembly プロジェクトでは、アプリケーションの .NET コードを WebAssembly に変換してクライアント側で動作させます。このときに wasm-tools
が必要になります。
なぜエラーが起こるのか?
Visual Studio 上で Blazor WebAssembly プロジェクトを作成した場合でも、初期状態では wasm-tools
が含まれていないことがあります。
その結果、プロジェクトのビルド時に次のようなエラーが出ます:
このプロジェクトをビルドするには、次のワークロードをインストールする必要があります:wasm-tools
これは、「このプロジェクトをビルドするために必要な Wasm 関連のツールが足りませんよ」という意味です。
解決方法:Visual Studio に wasm-tools を追加する
CLI から dotnet workload install wasm-tools
を試しても、Visual Studio 経由でのビルドには反映されないことがあります。Visual Studio を使っている場合は、Visual Studio Installer から正しくワークロードを追加するのが確実な方法です。
手順1:Visual Studio Installer を開く
- Windows の「スタート」メニューから「Visual Studio Installer」を検索
- 使用中の Visual Studio インスタンスの「変更」ボタンをクリック
手順2:必要なワークロードを追加する
推奨ワークロード:
- ASP.NET および Web 開発
- .NET MAUI(クロスプラットフォーム)
- Blazor WebAssembly AOT
これらのワークロードにチェックが入っていなければ、追加してください。
個別のコンポーネントから追加する方法:
- 「個別のコンポーネント」タブに移動
WebAssembly
またはwasm-tools
と検索- 以下のコンポーネントにチェック:
- .NET WebAssembly ビルドツール
- .NET WebAssembly AOT ツール
手順3:インストール後に Visual Studio を再起動
変更を適用し、Visual Studio を再起動してから再度ビルドを行うことで、エラーが解消されるはずです。
.NET CLIでの補足:wasm-toolsのインストール
Visual Studio を使用せず、コマンドラインだけで作業している場合は、以下のコマンドでも同様のワークロードを導入できます:
dotnet workload install wasm-tools
インストール済みかどうかを確認するには:
dotnet workload list
また、万が一うまくいかない場合は以下で修復できます:
dotnet workload repair
ただし、Visual Studio を併用している場合は、VS Installer が優先されるため、CLI 側でのインストールが反映されないケースがあります。
なぜVisual StudioとCLIで違いが出るのか?
Visual Studio でのワークロード管理と dotnet
CLI のワークロード管理は、実は 完全には統合されていません。
たとえば、CLI で wasm-tools
をインストールしても、Visual Studio 側では「未インストール」とみなされ、エラーが出続けることがあります。
そのため、Visual Studio ユーザーは 必ず VS Installer から追加するようにしましょう。
今後の開発で気をつけるべきポイント
1. ワークロード不足は最初に確認
新しくプロジェクトを作ったとき、ビルドやデバッグに問題がある場合は、まず 必要なワークロードがすべて入っているかを確認しましょう。
2. Visual Studio と CLI は別管理と考える
Visual Studio を使っている限り、CLI 側だけで環境を整えるのはリスクがあります。CLI はあくまで補助的な役割として認識しておくとトラブルを減らせます。
3. 今後の .NET アップデートに備える
.NET 9 以降も、WebAssembly 対応はどんどん強化されていくと予想されます。今後のアップデートではさらにワークロードの分離・最適化が進む可能性があるため、定期的な環境確認が大切です。
まとめ
Blazor や OpenSilver を活用して Web フロントエンドを .NET で構築する機会が増える中で、wasm-tools
は今や欠かせないワークロードです。
エラーが出たときには焦らず、Visual Studio Installer を開いて必要なワークロードを確認する。それだけで、プロジェクトが正常にビルドできるようになります。
.NET 9 環境での Wasm アプリ開発をスムーズに進めるためにも、wasm-tools
の存在と役割を正しく理解しておくことは非常に重要です。
今後も .NET を使ってフルスタックに開発を行っていくために、こうした細かなツールの設定・導入にもぜひ目を向けてみてください。
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